池谷裕二「進化しすぎた脳」

モノがちゃんと立体に見えるのは、目が2つあるおかげだと言われる。しかし片目をつぶっても、人の姿がペラペラの立て看板のように見えるわけではない。
視神経の数は百万本しかないらしい。デジカメで言えば百万画素である。しかし実際にわれわれが見ている風景は、どんな高画素の写真よりも鮮やかだ。
人の網膜は真ん中に神経が集まっていて、隅の方には色を感じるセンサーすらないという。しかし、もちろんわれわれは、視野の隅々まで、しっかりカラーで見えている。
これらの不思議はみな、ほんとうは見えていないものを脳が補って見せてくれている、という事実を示している。われわれは目でありのままの世界を見ているのではなく、目を通して脳が見せてくれる世界を見ているに過ぎないのだ。
モリヌークス問題はかつて哲学の問題だったが、今は脳科学がそれを引き継いでいるということか。ものすごく分かりやすく、最高に面白い本。