若桑みどり「絵画を読む」

イコノロジー(図象解釈学)の入門書。カラバッジョの「果物籠」はなぜテーブルからはみ出して描かれているのか。籠の中のリンゴはどうして虫に食われ、葉っぱは生気を失い萎びているのか。一見何でもない果物籠だが、そこには若さはやがて衰え、快楽はやがて退廃するという寓意が込められているのだという。だからカラバッジョの「一枚の静物画は一枚の聖母画にひとしい」という言葉は、静物画にも芸術的な価値があるというなどという意味ではない。この頃の絵はただの写真の代わりではなく、見て楽しむ飾り物だっただけでもなく、深遠なメッセージを含んだイコンだったのだ。絵は知識ではなく無垢な感性をもって味わうものだ、という素朴な芸術観を打ち破る刺激に満ちた一冊。「絵画を読む」とは、なるほどうまいタイトルだ。