筒井賢治「グノーシス」

ずっと前、五千円も出してハンス・ヨナス「グノーシスの宗教」を買ったのに、読み切れず挫折したことがある。だから1500円の本書でもって、ちょっと分かったような気分になれたのは気分がよい。グノーシスとは、簡単に言うとキリスト教以前の神秘思想に端を発して、さまざまに分化しつつ中世の異端審問の時代まで生き残り続けた異端思想である。いろいろな流派があるが、至高の存在としての神と、世界と人間を創造した邪悪な神がいて、至高神が自分が作ったわけでもない人間を救い給うというのが共通した世界観である。キリスト教で言えば最初に「新約聖書」を編集したマルキオンから、ずっと時代は下って異端審問の標的となったカタリ派まで、時間的にも空間的にも実に深甚な影響を与えている思想でもある。大昔に流行った二元論にすぎないなどと片付けず、もう少し調べてみようという気になった。