月別アーカイブ: 2016年3月

K・B・レーダー「死刑物語」

古代から現代に至るまでの死刑の歴史を描いた本。決して猟奇趣味ではないが、読むと気分が悪くなる。焚刑だのギロチンだのといった過去のものから、絞首刑、電気椅子などといった今日使われている方法に至るまで、処刑の様子がじつに詳しい。凶悪な犯罪を犯した者には相応の罰を与えなければならない、という言い分はよく耳にするものだが、しかし、実際の処刑を少しでも思い浮かべてみたならば、それがいかに残酷なものかが分かるだろう。絞首しようが電気を流そうが、そしてやや意外なことにギロチンにかけようが、人の死というものは一瞬のうちにおとずれるわけではないらしい。断頭台の下から自分の胴体を見上げる罪人、という図を思い浮かべるのは悪趣味かもしれないが、死刑の是非を考えるには、そういうリアリティを抜きにして理屈だけで論じても仕方がない気がする。明治大学博物館では、ギロチンや鉄の処女、獄門台、磔柱などの展示をみることができるので、さらにリアルな想像をしたい人にはこちらもおすすめ。

林克明+大富亮「チェチェンで何が起こっているのか」

2002年のモスクワ劇場占拠事件は、もう忘れられてしまっただろうか。ロシアの特殊部隊が毒ガスを使って犯人グループを掃討したものの、129名もの人質が犠牲になってしまった事件である。犯人はチェチェン人。彼らはどういう連中なのか。
チェチェンは北コーカサスに位置する小国である。帝政以来400年にわたってロシアの軍事侵略に苦しめられ、スターリンの時代には民族ぐるみで辺境の地に強制移住させられて、住民の半数が犠牲になったとも言われている。こうした苦難の歴史は過去のものではなく、つい先ごろ2009年に終結したチェチェン戦争では、100万人足らずの人口のうち20万もの人の命が奪われた。それほどの非道が行われていながら、われわれはチェチェンについて何も知らない。
2015年以来、ロシアがシリアを執拗に空爆する背景には、チェチェン人のISへの参加があると言われている。こういう本を読んでしまうと、今日の世界のありさまは、テロは悪だという単純な図式では割り切れないことが分かってくる。

根本順吉+新田次郎「病める地球、ガイアの思想」

朝日出版社のレクチュア・ブックスの一冊。30年くらい前の本。副題は「汎気候学講義」。ともに気象台で働いていた二人の対談である。あまりに面白いので、この本をもとにラジオ番組が作られたこともある。「かつてサハラ砂漠は湿潤だった。それが6千年前に高気圧の圏内にすっぽり入ったために、雨が降らなくなってしまった。人々は水を求めてナイル川まで移動した。エジプト文明は彼らを奴隷として利用することによって成立したのだ」などという気候と文明の関係も面白いし、「昭和のはじめ、虹を観測することによって地震を予知し、「明日朝四時伊豆ニ地震有リ」と新聞社に電報を打って見事に的中させた人がいた」なんていう話もたまらない。この本ばかりでなく、魅力のある人たちの対談をずらりと並べたレクチュア・ブックスは本当にすごい企画だった。若いころの脳みそに、くっきりと刻印を残した本のひとつ。