ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」

歴史の本の面白さは、どういう時代が描かれるかではなく、どういう歴史観で描かれるかにかかっている。その点本書で描かれる物語の面白さは抜群である。なぜ歴史はこのように展開したのかを問うのは社会科学として当然の姿勢だが、スペインはインカ帝国を滅ぼしたが、なぜ逆にインカ帝国がスペインを滅ぼすという風にはならなかったのか。なぜアフリカの黒人がヨーロッパを支配するというようにはならなかったのか、という問題提起はたいへん刺激的だ。その問いに対する答がこれまた鮮やかで、著者の手腕に見とれるばかりである。今日の社会の有り様を決定づけた要因は民族的な優劣などではなく、栽培に適した植物が生えていたか、技術が伝播しやすい地形をしていたか、家畜化しやすい動物が棲んでいたかというような、たまたま与えられた環境の違いだったというのである。偶然振り分けられたような環境が歴史を必然のように動かしていく、なんとも壮大な一万三千年の物語。