2002年のモスクワ劇場占拠事件は、もう忘れられてしまっただろうか。ロシアの特殊部隊が毒ガスを使って犯人グループを掃討したものの、129名もの人質が犠牲になってしまった事件である。犯人はチェチェン人。彼らはどういう連中なのか。
チェチェンは北コーカサスに位置する小国である。帝政以来400年にわたってロシアの軍事侵略に苦しめられ、スターリンの時代には民族ぐるみで辺境の地に強制移住させられて、住民の半数が犠牲になったとも言われている。こうした苦難の歴史は過去のものではなく、つい先ごろ2009年に終結したチェチェン戦争では、100万人足らずの人口のうち20万もの人の命が奪われた。それほどの非道が行われていながら、われわれはチェチェンについて何も知らない。
2015年以来、ロシアがシリアを執拗に空爆する背景には、チェチェン人のISへの参加があると言われている。こういう本を読んでしまうと、今日の世界のありさまは、テロは悪だという単純な図式では割り切れないことが分かってくる。