漢字がどのようにできたのかという話になると、一般的には「山」は山の形をかたどって作られた、なんていう説明をされることが多い。しかしこれでは個々の字の成り立ちは説明できても、なぜ漢字が生まれたのかという疑問に答えたことにはならない。白川文字学では、漢字は人に何かを伝える道具としてではなく「ことだまの呪能をそこに含め、持続させるものとして」生まれた、とする。そういうことを頭に入れて読むと、「道」という字が敵の首を携えてゆくことを意味するとか、「伏」の字は敵の呪詛を避けるために犬を埋めることをあらわすといった説明が、すんなり納得できる。身近な漢字から古代の人たちの精神世界がここまで透けて見えるとは、まったく驚くしかない。