副題は「日本古典を読む楽しみ」。まさに古典を楽しむためのヒントが満載である。なかでも和歌は本来声に出して朗々と歌った、という指摘には、今さらながら目を開かれる思いがした。たとえば「風吹けば」という一句なら、「かぜーふけばーーーーーーぁあぁ」ってな具合にゆったりと詠んでいく。するとその間に、聞く者の心の中には「風が吹く」というイメージが横溢してくる。そうしておいてまた「峰に分かるる」と来ると、聞く人の心のなかには、京の都の周囲に立ち並ぶ峰峰が想起されたに違いない、なんて言われると、たしかに歌を耳にしながら、次々に頭のなかで映像を思い浮かべていたであろう当時の人たちの有り様が想像できるような気がしてくる。なるほど和歌をささっと黙読するのは、音楽を早回しで聴くようなものだったか。世に古典案内の本は多いが、こういう当たり前のことを教えてくれる本は少ない。