渡辺京二「逝きし世の面影」

文化は継承されるが、文明は滅びる。18世紀初頭から19世紀まで続いた日本の文明は、明治の半ばを過ぎるころには、跡形もなく消え去ってしまった。かつて日本を訪れた外国人は、この国の無垢で開放的で礼儀正しい人たちに接して、みな感嘆の声をあげ、「地上の天国の天真爛漫さ」とまで評したという。たしかにどこの家も開けっ放しで中は丸見え、興を感じた外国人が上がり込んでも怖がることもなく歓待してくれるとなれば、それも当然だろう。好奇の目ではなく、自分達が持ち込んだ「近代文明」によって滅んでいく美しい世界を、惜しみ懐かしむようなかれらの眼差しが印象に残る。一読すれば忘れられない名著。