基本的に「中国古典に学ぶリーダーの生き方」のような本は安っぽくて嫌いなのだが、この本はよかった。著者の懐の深さを感じる。キティちゃんや松田優作や金子みすずやブレヒトが、荘子や老子を読み解くヒントとしてごく自然に登場するのが楽しい。どのページも退屈するところはないが、なかでも古代の中国では「戦争の手段として黄河の堤防を切らない」という条約が作られていて、それが二千六百年間も守られ続けた、という話には驚いた。ちなみにその条項が破られたのは1938年。中国軍が日本軍の進撃を食い止めるために堤を切り、数十万人もの犠牲者を出したとか。長い歴史を歩んできているわりに、人間というものがちーとも利口になっていないのが、ちょっと悲しい。