漱石が実際に見た夢を題材に書いたという十話からなる短編集。夢の話だから当たり前だが、実に不思議な感じのする作品だ。文豪の心をおおう深い闇を、ほんの少しのぞいたような心持ちになる。
ところでこの本は、誰もが知っている「夢十夜」ではない。漱石の文章にはもちろん何の手も加えられていないが、版画家金井田英津子の挿画と装丁によって、すっかり新しい作品が生まれかわっている。これはちょうど音楽が、照明や振り付けを加えることでまったく違った様子を見せるのに似ている。文章だけでじぶんなりのイメージを楽しみたい人の好みには合わないかもしれないが、原文と調和しながらも、まったく新しく、不思議な世界を作り上げた手際は見事。パロル舎はいい本を作る。