百人一首はカルタで遊ぶこともあり、学校で暗唱させられることもあって、わが国でぶっちぎりに有名な詞華集である。ところが冷静に見ると、不審な点が少なくない。類歌がやたらと多かったり、さほど有名とは言えない歌人が入っていたり、藤原定家が好んだとも思えない凡庸な歌が選ばれていたりする。たとえば西行からよりによって「かこち顔なるわが涙かな」を採るなんて、どうも変ではないか。本書はこういう謎に真っ向から挑んだ本である。古典の謎解きというと、万葉集が韓国語で読めるだの、聖書には暗号が隠されているだのといったトンデモ本も確かに多いが、これは信じてよい本だと思った。