中国の歴史を食生活の変化によってたどる労作。そもそもこの本を読んだのは、この人と開高健との対談に食人の話がでてきて、それがたいそう面白かったからだ。食人というのは、飢餓の極限的な状況の中で行われるのでなければ、恨みを晴らすのに相手の肝を食うとか、ありがたい聖人様の力に預かろうと遺体を食べてしまうとか、きまって呪術的な意味合いが含まれていると思っていたが、そうではないらしい。本書によれば、唐代以降、趣味嗜好としての食人の例がいくらでもあるという。いや四本足のものは机以外何でも食い、二本足のものは親以外なんでも食うという評は、あながちウソでもないか。食人の話は三百数十ページのうち5ページくらいだが、ほかのところはきわめて良質でまともな食物史。軽妙な筆致でぐいぐい読ませる。食べ歩き番組より断然おもしろい。