前回取り上げた永井均の本は、考えることを楽しむというような軽いスタンスが身上だったが、対するこちらはずっと熱い。本気でいろいろなことを考え抜こうとする人には、これほどすぐれた入門書はあるまい。哲学を語りながら、冷徹な論理だけでないところが好もしい。ゴッホは生活の苦しさなど問題にしていなかった、なぜなら絵を描くのでなければ生活する理由などなかったからだ、なんて書きぶりが、安定だけを志向する小さな道徳観を強く揺さぶる。「個性的であるということと、人と違おうとするということとは、まったく逆のことなんだ」というくだりを読んで、自分探しとやらに迷い込んでしまっている人たちに、聞かせてやりたくなった。