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開店祝いの花

近くに新しい店ができ、
開店祝いの花輪が店先にずらりと並んでいた。
ここ名古屋では、
こうした花輪の花は勝手に持っていってよい
という風習がはびこって、もとい残っている。
今日も近所のおばさんたちが群がって、
抱えきれないくらいの花を持ち去っていた。
どうやら食事をした帰りがけというわけでもなく、
わざわざそのために来たようである。
開店の景気付けだとか、縁起のものだとか言われているが、
おばさんたちの頭にあるのはもちろん
そんな共同体的配慮などではなく、
「タダならもらわなきゃソン」というぎらぎらした
一念だけである。
ぼくはこれを見るたびに、
名古屋に暮らしていることを恥じずにはいられない。
店の中に小学4年生くらいの男の子がいた。
おかあさんとの会話から察するに、
千葉で生まれて横浜で育ったようすである。
やがてこの子が花を持ち去るおばさん達に気がついた。
「おかあさん、おかあさん、どろぼうだよ」
「いや、名古屋ではね」と説明するおかあさん。
ところがこのボウズは納得しない。
店の外のおばさんに聞こえないことをいいことに
「どろぼうだ、どろぼうだ、どろぼうだ」と言い続けてやまない。
それがやがて憎々しげな「ドロボーう」という口調に変わる頃、
ぼくもだんだん腹が立ってきた。
おばさんにではない。このボウズにである。
自分の育った文化と違っているからと言って、
大の大人を泥棒呼ばわりするとは何ごとだ。
それを見ながら咎めないとは、親はいったいどういうつもりだ。
ここではあれが当たり前なのよ、
土地によっていろいろな習慣があるんだね、
と教えてやればいいではないか。
たしかにぼくもこの花の持ち去りは恥ずかしい蛮習だと
思っているが、しかしそれを排斥しようとは思わない。
いくら演歌が嫌いでも人前で演歌を貶めるようなことは
言わないのと同じである。
ひと言いってやろうかと思って振り返ったら、
さっき帰ったはずのおばさんが、ふたたびやってきて
両手いっぱいに花を抱えたところだった。
ああ。