月別アーカイブ: 2007年8月

ちょくちょく読むのは

近ごろなかなか忙しい。
忙しいといったところで、
朝8時半ごろから教室を開けている、
というだけのことなのだけれど、
夜のお仕事に慣れている身には、
なかなかしんどいことである。
それはともかく、
生活のリズムが変わると困ったことがある。
翌日に備えて早寝をしてしまうため、
ちっとも本が読めないことだ。
一日せいぜい30分である。
しかし時間が限られていることが幸いしてか、
集中力はことのほか高い。
読むのはもっぱら小林秀雄。
この人の文章は、決して読みやすくない。
読みやすさ、分かりやすさをよい文章の条件だとすれば、
いっそ悪文といってもいい。
30年くらい前に大学入試に好んで使われたのは
そのためだろう。
一読してすっと頭に入るようには書いてくれない。
彼が辿ったであろう思考と連想の道筋を、
文と文の間から読みとらなくてはいけないから、
寝そべって読むようなわけにはとてもいかない。
book.jpg
こうした彼の文章を、
論理的でないと嫌う人は少なくないが、
しかし、すらすら読めないからこそ、
立ち止まったり、ふり返ったり、
足もとを見つめたりするのだし、
そうすることで書き手の視線が自分の視線となり、
書き手の呼吸が自分の呼吸となるような
至福の瞬間が訪れるのだと思う。
彼の作品を読んでいると、
彼のいう「胸中の温気の熱さ」に充たされてきて、
今日の学者先生たちの書く正しいだけの冷たい文章が、
実に味気ないものに思えてくる。