大坪くんと同じクラスになったのは、
小学校の3年生か4年生のことだった。
大坪くんは字がきれいだった。
先生も友だちも、みんながほめた。
ほんとうに字がきれいだね、と
言われているうちに、
大坪くんはますます丁寧に書くようになった。
ていねいに、ていねいに。
ゆーくり、ゆーっくり。
とうとう大坪くんの字は、
ゆっくり書きすぎて、
ぷるぷる震えるようになってしまった。
きれいに書こうとすればするほど、
ぶざまに震えてしまうのだ。
子ども心にも、あれはちょっと怖かった。
大坪くん。
人はね、君が思っているほど、
君のことなんて気にしていないんだよ。
誰かがそう言ってやればよかったんだろう。