まったく自慢にならないが、
ぼくは昔から、大変おぼえが悪い。
記憶力が悪いという以上に、
対象に馴染むまでに非常に時間がかかるのだ。
勘が悪いと言うべきかもしれない。
だからはじめてのことをしようとすると、
最初はほとんどついていけない。
誰もが当たり前にできることが、まったく、
本当にまったくできなかったりするのだ。
言われたことに、
なかなかチューニングが合わない。
学生のころアルバイト先で、
お湯を沸かしておいてくれ、と言われたことがある。
今となっては信じられないが、
そのときぼくはこの簡単な指示が、まったく理解できなかった。
お湯って、どういう?
沸かせって、どうやって?
沸騰させるのか?
それとも温かいお湯がほしいのか?
飲むのか?
調理に使うのか?
掃除につかうのか?
それとも加湿に?
小さな鍋で?
大きなヤカンで?
まずきれいに洗わないとだめなのか?
それとも?
なんてことがまったく分からず、
しばらくぼんやりと突っ立っていたのである。
まったく間抜けな話である。
その後1週間でクビになったが、
そりゃそうだろう。
なかなか分かってくれない子を教えるときに、
よくこのことを思い出す。