高校生の頃、
名古屋の自宅から京都まで、ひとりで歩いたことがある。
6日間の小旅行である。
昼間はただ黙々と歩き、
神社の陰で寝袋にくるまって眠る、
なんていう道中が、楽しいはずはなかったが、
あれは貴重な体験だった。
おう、乗ってけよ、
と声を掛けてくれたトラックの運ちゃんも、
こころよく泊めてくれたお寺の人も、
顔は覚えていないけど、懐かしい。
あんな淋しさや不安や心細さは、
大人になってしまってからは、
なかなか味わえるものではない。
たしかにあの大学生のように、
仲間とにぎやかに出かけるのも楽しいだろう。
でも、楽しいことがいちばんよいとは限らない。
楽しくなくてさびしくて、
それでも素晴らしいことってのが、やっぱりある。
若くて馬鹿で弱くて貧乏なうちに、
そんなことのひとつを体験できてよかった、と思う。