さよならが言えなくて

塾の生徒の中に、挨拶のできない子がいる。
こんにちは、とか、こんばんは、は言えるのだが、
たまに、挨拶もしないでそっと帰ってしまうのだ。
まったく失礼な話である、ぷんぷん。
ってなことが言いたいわけではない。
無言で帰るのはたしかに無礼である。
しかし、じつはその無礼さは、
その子の礼儀正しい賢さに由来していることくらい、
ぼくにも分かっている。
その子は子どもに似合わないような配慮をもって、
ぼくに気をつかってくれているのだ。
ぼくが他の子を教えているのを中断するのは失礼だ、と彼は思い、
その結果、何も言わずに帰ってしまう、というわけだ。
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これには考えさせられる。
相手のことを思いやるがゆえに、そっと帰る。
ところがそのために、挨拶もできない子、
なんて思われてしまう。
逆に、相手の都合など何も頓着せず、
大きな声で、さようならって言える子は、
ただ無神経なだけなのかもしれないのに、
元気で礼儀正しい子とみなされる。
ふーむ。
以前にも書いたことだけれど、
ごめんなさいって言えない子も同じだ。
ものすごく悪いことをしてしまった、と
思っているからこそ、何も言えない。
逆に、素直に謝れる子は、
実は大して悪いとは思っていないからこそ、
さらっと口先だけで謝れる、のかもしれない。
ぼくたちは洞察力をそなえた大人として、
こういう挨拶のできない子、
ごめんなさいの言えない子のもつ密やかなよい子さを、
ちゃんと見つけてやりたいものだよね。