若いころ、大人というのはどうしてこれほど
ものを知らないのだろう、と不思議だった。
仕事のための知識は豊富だろうに、
当たり前のブランドの名前も、
ヒットチャートを独走している歌手の名前も、
何も知らない。
ふつうに暮らしていれば目に入ることばかりなのに、
妙なものだと思っていた。
ところが自分が40代の半ばにかかり
名実ともに堂々のおじさんになってみると、
わが暮らしの現実は、あーらびっくり、
やはりそういうものだった。
もう何ヶ月もテレビを見ていないし、
車のラジオさえ聴かないから
当たり前といえば当たり前なのだが、
世間の流行りがまるで分からん。
たとえば先日新聞の特集で、
「千の風になって」という曲を取り上げていたが、
ぼくはこの曲を一度も聴いたことがない。
何年か前に原詩を読んだことはあるが、
曲自体はおそらく耳にしたことがないと思う。
スポーツは新聞でもネットでもチェックしているから
結構くわしいが、
芸能ネタはもとより社会面もほとんど読まないから、
どんな事件が世を騒がせているのかもよく知らない。
そして、そうした自分のあり方を、
ことさら恥ずかしいと思ったこともない。
さて、ある高校の定期テストで、
「先ごろ恐喝容疑で逮捕されたタレントは誰か」
という時事問題が出題されたと聞いた。
テストの問題というものは、
よい成績を取ろうとする真面目な生徒にとって
行動指針となるに違いないが、
この問題を出すことによって、
生徒にどんな能力とどんな生活習慣と、
大げさに言えば
どんな人生観を身につけさせようというのか、
ぼくにはまったく分からなかった。
こんな問題、解けない方がよっぽど自慢になると
思うんだけど。