音のない街を歩けば

ぼくは徒歩通勤をしていて、
行き帰りは、たいてい、iPodを聴いている。
で、
そういう風にしていると、外の音がまるで聞こえないのね。
当たり前だけど。
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うしろから下り坂を走ってきた自転車が、
風を残してびゅんっと脇をすり抜ける。
そういうときは、ほんとにどきっとする。
ぼくはカメラを持ち歩いていて、気になるものはふらふらと
撮りにいく習性があるのだけれど、
そのふらふらした瞬間に
時速40kmで疾走する自転車に追突される、なんてことは、
十分にありうる。
音が聞こえていたら、ぶつかる前にぎゅっと身を固くして
身構えるだろうから、あるいは大した被害もないかもしれないが、
音が聞こえないところにいきなりどかんとぶつかられたら、
間違いなく大怪我をするだろう。
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風が吹く。
目の前の舗道を、ひとつかみほどの落ち葉が這って行く。
かさかさ、と乾いた音を立てているはずだ。
しかし、ぼくには無音である。
音のない風景は、目の前にあっても、まるでテレビで見るように、
遠く感じられる。
リアルな世界がヴァーチャルであるかのようだ。
すぐそこで交通事故が起こっても、音楽に浸っている心には、
それはきっと、絵のように静かなものに映るだろう。
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いつでもどこでも好きな音楽が楽しめることは素晴らしい。
しかし、何かがもたらされるところでは、
きまって引き換えに、何かが失われている。
それは、自覚できない何かで、
もしかしたら、かけがえのない何か、なのかもしれない。