直接目で見ること以外は、人に言われたことを信じるしかない。地球が丸いとか、火星には生き物がいないとか、聖徳太子が何をしたとか、白血球がどうしたとか、低気圧がどうなったとか、実際には自分じゃ確かめられないことばかりだ。統計数字もそんな面があって、その数字が正しいものかどうか、直接調査と集計をした人以外は知りようがない。
だからとりあえずそのまま数字を信頼するしかないんだが、中には数字そのものは正しいとしても、解釈を歪めたり都合のよい数字だけを持ち出したりする人がいるからたちが悪い。あるいは自分で解釈するときでも往々にして自分の望んでいる結論に引きつけて数字を読み取ってしまう。
ちょっと長いが次のリストを見てほしい。2020年5月5日現在での新型コロナウイルスによる各国の死亡者数である。ツイッターで広くリツイートされているものを、元データにあたってまとめ直してみた。
https://www.statista.com/statistics/1104709/coronavirus-deaths-worldwide-per-million-inhabitants/
【人口100万人あたりの死者数】
ベルギー 694
スペイン 544
イタリア 481
イギリス 432
フランス 376
オランダ 295
スウェーデン 272
アイルランド 272
アメリカ 210
スイス 210
カナダ 108
ポルトガル 103
エクアドル 92
デンマーク 85
ドイツ 84
イラン 77
オーストリア 68
パナマ 49
スロベニア 47
フィンランド 44
トルコ 42
ペルー 42
ルーマニア 42
エストニア 42
北マケドニア 41
ノルウェイ 40
モルドバ 37
ハンガリー 37
ブラジル 35
ドミニク共和国 33
プエルトリコ 30
セルビア 28
イスラエル 26
チェコ 24
ボスニア・ヘルツェゴビナ 24
クロアチア 20
:
韓国 5
:
日本 4
まずはこの数字が正しいとしよう。
人口100万人あたりの数字だから、国による人口の違いを考える必要はない。数をそのまま被害状況と理解すれば良い。
そのうえで、素直に、虚心に、先入観や偏見を持たずにこの数字を見ると、現在日本中に満ち満ちている政府や関係機関への悪意に満ちた批判の声とは裏腹に、意外にも、実際には日本の感染症対策が、世界的に見ても群を抜いて優れていることがわかる。日本すごいっ。
ような気がしただろうか。したでしょ。
それほどこれは、うまくできている資料である。
事実をもって虚偽を伝える典型的な例だ。
もとの数字に当たってみればすぐわかることだが、この調査で日本の順位は70番目で、調査の対象は140カ国である。いちばん少ないわけではない。真ん中くらいだ。それをあえて日本のところで切ることによって、日本こそがもっとも感染症対策に成功している国であるかのような印象を作り出すことに成功している。同じ数字を使っても、表示を人口1000万人あたりに直し、日本をいちばん上にして、日本よりも死亡者数が少ない国を69カ国ずらずら続けた長いリストとして示されたら、日本はおそろしく感染が広がっている国に見えるに違いない。
まあそんだけの話なんだが、情報というものは決して素のままの中性的なものではなくて、何らかの解釈が加わっているものだし、そのうちのかなりのものに、何かを伝えよう、何かを操作しようという意図が加わっているということは、忘れずにいたい。