子どもたちに、セミってどう鳴くの、と尋ねると、
きまって「みーん、みーん」という答が返ってくる。
そのたびぼくは、注意をする。
それはテレビで観たんだろ。
外のセミがみーんみーんって鳴いているか?
ちゃんと聞いてみな。
ここ名古屋には、ミンミンゼミはいない。
したがって、セミというのは
「じーじー」とか「しゃーしゃー」と鳴くものである。
セミがみんみん鳴くなんてのは、
ここに暮らす者にとって、
キツネがこんこん、
たぬきがぽんぽこというのと同じたぐいの
擬音に等しい。
しかしどうやら子どもたちは、
現にうるさく鳴いている外の蝉よりも、
テレビの中のみーんみんみんの方に、
よほど馴染みがあるようだ。
ぼくはセミが大っきらいだから、
子どもたちがセミなんかに親しんでくれなくても
一向に構わないのだが、
目の前の現実よりもテレビの作りごとがより親しい、
という状況は、やはりただごとではない。
もちろんテレビを観るときは、
ふだんよりずっと音に対して意識的になっているから
同じ音でもより印象に残るのはやむを得ないのだが、
やはり自分の耳が教えるとおり、
みんみん鳴くのはテレビの話で、
セミはじーじー鳴くものだ、
ときっぱり答えるようになってほしい、と思う。
えっと、以上の文章は、ひと月くらい前に書いて
そのまま忘れていたものだが、
どうして今ごろ引っ張り出したかと言うと、
じつは今朝、朝食をとっているときに、
ミンミンゼミが鳴いているのを聞いたからだ。
はっきり、みーんみんみんみーん、と鳴いていた。
驚いた。
名古屋にはミンミンゼミはいないはずじゃなかったのか。
これじゃえらそーに説教していたぼくの方が、
テレビやネットの情報を鵜呑みにする
駄目なヤツみたいじゃないか。
くそー、ミンミンゼミめ。