ふらりと入った店で、ジーンズを見ていた。
すごいね、近ごろの加工技術は。
3年かけて育てましたっていうような
実にリアルな色落ちをしていたり、
股のあたりや膝の裏に、これまた本物そっくりな
シワが最初から入っていたりする。
はき古した味、というのをどんどん追求した結果、
盛大に破れている新品が当たり前のように
売られていたりもする。
とても面白かった。
つまり、マニアの皆さんが徹底的にこだわる部分が、
最初からすっかり織り込まれているのだ。
2万数千円出して買い、洗いたいのも洗わずに、
ひたすらそのジーンズだけ履き続け、
何ヶ月もかけて味を出していく、
というような過程を一気に飛び越え、
ほんの数千円で、
最初からばっちり出来上がっているものが買えてしまう。
何と言うか、
こういう商品が売れるということは、
ぼくたちは、それほどまでに
待つことができなくなっているのだろう。
そりゃ誰だって、カッコいいジーンズは1年先じゃなくて、
いま穿きたい。
その気持ちはよく分かるし、べつに悪いことでもない。
しかし、大げさに言えば、
それをどんなことにも求めるとなると、
さすがにちょっと問題だと思う。
勉強を始めたら、すぐ結果が出ないといやだ。
営業を始めたら、すぐ業績が跳ね上がらなきゃいやだ。
話し合いをしたら、すぐ解決しなければ我慢できない。
なんてことになったら、それはとても不幸なことだ。
時間のかかることは、どうしたって時間がかかる。
時間のかかることは、時間をかけなきゃ仕方がない。
あれやこれやの便利な物に囲まれた毎日だけれど、
こういう当たり前のことを忘れちゃいかんよな、うん。