怪しい者じゃありませんってば

寒いのは苦手だが、嫌いではない。
歩くのは寒いが、苦手ではない。
今日もうんと遠回りをして歩いてみた。
寒かったんだけど。
自宅から教室までは真面目に歩けば15分で着くはずなのに、
近ごろは1時間近くかかることもある。
ちょっと遠回りするつもりでも、
知らない道ではほぼ確実に迷うので、
ちょっとでは済まなくなることがあるのだ。
もう十年以上通っている道で迷うというのは、驚くべきことである。
それも徒歩によるごく限られた範囲で迷えるのだから、
すでに異能といってよい。
そうそうずいぶん前になるが、
ふらふら歩き回っているうちに
雑木林の奥に迷い込んでしまったことがある。
方向音痴の者にとっては、
雑木林と樹海の違いは、ただ規模の違いでしかない。
冗談ではなく、ほんとうに出られないような気がした。
冬なのに汗だくになったから、けっこう本気で焦っていたのだ。
そのうちにどこをどう歩いたのか、
ようやく林の向こうが透けて見えた。
わーい、と喜んでがさがさ藪をかき分けて出てみたら、
そこに広がっていたのはユーカリの畑だった。へ?
夢の話ではない。
ここ名古屋の動物園にはコアラ様がお住まいなのである。
ユーカリの葉っぱは八百屋じゃ買えないから、
栽培していることに何の不思議もない。
しかしまあ、あれね。
ユーカリ畑があるなんて予想もしていなかったから、驚いたです。
コアラちゃん用だということくらいは分かるけど、
いかにも唐突な感じじゃないですか。
なーんでこんなところに、と思ったが、
藪の中からがさがさと、
コートを手にして汗かいたおっさんが出てくる方が、
よっぽど場違いってもんだよなー。